交通事故に際して、人身事故が発生した際、被害者が、法律上求められるシートベルトを使用していなかったというケースが有ります。

シートベルトの使用率は高まりつつありますが、今なお、シートベルト不使用であったため、被害者の損害が拡大した、という事故は後を絶ちません。

そして、交通事故訴訟に際しては、法律上求められるシートベルト・チャイルドシートの不使用が、過失割合に影響を及ぼすことがあります。

過失割合とは

交通事故の過失割合というのは、互いの不注意によって事故が発生した場合における責任割合のことをいいます。

たとえば、A車直進中に、B車が進路変更してきた結果、事故が生じたような場合、A車運転手の過失割合が30%、B車運転手の過失割合が70%等と判断されることがあります。

このケースで、Aに生じた損害が100万円だとすると、AがBに賠償を求め得る金額は、70万円となります。

参考:交通事故の過失割合について

参考:交通事故事案における損害と過失割合の計算例

同乗者の怪我と賠償請求

次に、同乗者の怪我に関する賠償請求について、説明します。事案を簡潔にするため、ここでは、次の事例を想定します。

<想定ケース>
A車にB車が追突した。A車運転手には過失がない。ただ、A車には、A②が同乗しており、同事故によって、A②が怪我をした。


このケースにおいては、A②は、Bに対して、怪我の治療費や慰謝料などを請求することが可能です。特別な理由が無い限り、A②は、Bに対して100%の賠償を求めることが可能です。

シートベルト不使用と被害者の過失

では、上記の想定ケースにおいて、A②がシートベルトをしていなかった結果、A②が大きな怪我を負ったという場合はどうでしょうか。

道路交通法は、義務の名宛人を運転手とはしているものの、助手席・後部座席ともにシートベルトの装着を義務化しています。

また、自動車に乗る際には、シートベルトをすることが、一般的に普及してきているといえます。

そこで、現在では、助手席・後部座席ともに、被害者がシートベルトをしていなかったことにより、損害が拡大した場合、シートベルトの不使用が被害者の過失として評価されることが多くなっています。

上記のケースでは、A②がシートベルトをしていなかったことが、A②の過失として評価され、AのBに対する請求金額が一定程度減額(過失相殺による減額)がされる可能性が高いと言えます。

シートベルト不使用が過失と評価されない場合

もちろん、シートベルトを使用していなかったことだけをもって、被害者の過失と評価されるわけではありません。

たとえば、次に述べる①~③のような場合には、被害者の過失が否定され得ます。

<①因果関係が存在しない場合>
まず、シートベルト不使用と被害者の損害の発生・拡大に因果関係がないようなケースでは、被害者の過失は問われません。

<②シートベルト装着義務が免除される場合>
また、道路交通法上、疾病、妊娠中等を理由に、シートベルト装着義務が免除されるには、シートベルト不使用は被害者の過失とは評価されにくいと言えます。

<③加害者の過失があまりに大きい場合>
さらに限定的ではあるものの、事故発生に係る加害者の過失が極めて大きいという場合には、公平の見地から、被害者がシートベルトを使用していなかったとの事実をもって過失と評価しないというケースもあります。

過失割合の程度

以上に述べた①~③のような場合を除けば、シートベルト不使用により損害が発生・拡大したケースでは、被害者に一定の過失があると評価されるのが一般的です。

では、シートベルト不使用によって、被害者の過失はどの程度と評価されるのでしょうか。

この点、一般的には、助手席と後部座席とを分けた上で、助手席におけるシートベルト不使用につき、5%から20%、後部座席におけるシートベルト不使用につき、5%から10%程度が目安と言われています。

<過失の目安>
・助手席  5%~20%
・後部座席 5%~10%

この一般的な評価によれば、助手席の方が、比較的過失を大きく取られる傾向にあるといえます。

なお、具体的な状況でいえば、高速道路におけるシートベルト不使用は、比較的過失の程度が高く評価されがちです(一般道に比して過失が20%等との評価を受けやすい)。

<もう一歩前へ>
最後に付言をします。

上記の助手席5%~20%、後部座席 5%~10%との評価は、過去数十年に渡る裁判例などの分析・統計によるものにすぎないものと思われます。当然のことながら、個別案件における過失の程度は、事故状況等によって変わり得ます。

また、裁判例分析の対象に含まれる昭和や平成初期のころと比較して、現在は、後部座席のシートベルト装着の普及率が顕著に高くなっています

道路交通法上、平成20年6月1日より、後部座席においてもシートベルト装着義務が課されるようになり、後部座席においても、シートベルトを装着すべきという考え方が一般的になりつつあるともいえます。

助手席と後部座席とでは、道交法違反の点数付与の条件面で差はあるものの、いずれにせよ装着義務が課されていることには変わりがありません。

そのため、今後は、助手席・後部座席とでシートベルト不使用における過失の程度に大きな差は生じない、という評価に収斂されていくのではないかと予想されます。