インターネットオークションやユーザー間売買プラットフォームにおける取引に際して、売手が売却条件や商品の説明として、「ノークレーム・ノーリターン」と記載していることがあります。

ひびき法律事務所(北九州)では、ネットオークショントラブルなどの消費者問題も取り扱っています。そのトラブルの原因となりやすいのが「ノークレーム・ノーリターン」との記載です。

一般的・自然に考えれば、「ノークレーム・ノーリターン」の意味は、その旨の記載・説明のある商品について、何か問題があっても、売り手から買い手に対して、不服(クレーム)や返品(リターン)を受け付けない、という意味に理解しえます。

では、法律上も、同様の理解でよいのでしょうか。

以下、ノークレーム・ノーリターンの意味について確認します。

「ノークレーム・ノーリターン」の法律上の意味

民法は、ある商品の売却に関し、隠れた欠陥や不具合(契約不適合)があった場合に、売主は瑕疵担保責任(契約不適合責任)という責任を負うと定めています。

民法の原則においては、売買の対象となった商品に隠れた欠陥や不具合があった場合、買主から売主に対して、損害賠償請求が可能です。

また、当該欠陥や不具合によって、契約の目的を達成できない場合には、買主は契約を解除できると定めています。

契約の解除がされた場合、契約は無効となり、買主が商品を返品する義務を負う一方で、売主が代金を返還する義務を負います。

そして、ノークレーム・ノーリターンの約束は、このような民法のルールを排除する特約と解されます。民法においては、このような契約当事者がこのような特約を締結することも可能とされています。

したがって、ノークレーム・ノーリターン特約が有効な場合、買主は原則として、上記の損害賠償や契約の解除を為し得なくなります。

「ノークレーム・ノーリターン」特約の有効性

ただ、ノークレーム・ノーリターン特約は、いかなる場面においても有効というわけではありません。一定の場合には、当該特約も無効と解されます。

では、どのような場合に、ノークレーム・ノーリターン特約は無効となるのでしょうか。

この点については、当該取引が「事業者たる売主と消費者たる買主」でなされている場合と、そうでない場合とで、分けて考えるのが便宜です。

以下、①売主が事業者であり、買主が消費者である場合と、そうでない場合の例として、②単純なユーザー間で取引がなされている場合とを順に見ていきます。

①売主が事業者、買主が消費者である場合

インターネットオークションサイトやユーザー間売買プラットフォーム等において、第一義的に想定されるのは、消費者同士の取引であって、消費者と事業者との取引ではありません。

しかし、実際には、インターネットオークションサイト等も、事業者の販売チャネルとなっており、事業者が多数の出品を行っているのが現状です。

中には、インターネットを通じて仕入れた商品を、インタネットオークションや売買プラットフォームでより高値に売ることを繰り返す事業者もいます。

消費者たる買主が、こうした事業者から商品を購入した場合、「ノークレーム・ノーリターン特約」は有効でしょうか。買主は、損害賠償も契約の解除もできないのでしょうか。

結論を言えば、売主が事業者・買主が消費者である場合、当該特約は、民法の上記瑕疵担保責任を排除する効力を持ちません。消費者契約法という法律が、瑕疵担保責任を排除する特約を無効としているからです。

したがって、上記の場合には、ノークレーム・ノーリターン特約がある場合においても、消費者たる買主は、売主に対して瑕疵担保責任を追及しうることになります。

消費者契約法第8条第1項 
次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
①~④号 省略
⑤ 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵かし があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項

消費者契約法第8条の2第1項
次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
① 省略
② 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があること(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があること)により生じた消費者の解除権を放棄させる条項


②ユーザー間取引の場合

上記とは異なり、純然たるユーザー間取引においては、消費者契約法の適用はありません。

たとえば、単純なユーザーとしてAさんが所有使用していたパソコンが不要となったため、Aがこれを他のユーザーBに売却した、というケースでは、消費者契約法は適用できません。

そして、上記の通り、民法においては、瑕疵担保責任を排除するノークレーム・ノーリターン特約も原則的には有効と解されます。そのため、仮にパソコンに傷や汚れ、一定の不具合があったとしても、原則的には、売主Aの瑕疵担保責任は排除されます。

では、上記のケースで、Aが、売却したパソコンに重大な不具合があることを知りながら、サイトの記載やメールでの説明等を介して当該不具合があるということを一切告げずに売却したという場合はどうでしょうか。

このような場合でも、民法は、ノークレーム・ノーリターン特約によって、Bは、Aに何らの請求もできない、ということになるのでしょうか。

この点に関し、民法は、瑕疵担保責任の排除特約があったとしても、瑕疵があることを知りながら買主に告げなかった場合、当該瑕疵について、売主は責任を免れない旨規定しています。

不具合があることを知りながらこの点を告げずに商品を売却する売主は、もはや保護に値しないからです。

民法第572条
売主は、第560条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

民法572条に規定されるように、売主がパソコンの不具合を知りながらこれを告げなかったと言う場合には、ノークレーム・ノーリターン特約によっても、売主の責任は排除されません。

その意味は、ノークレーム・ノーリターン特約があっても、買主は売主に瑕疵担保責任を追及できる、という意味になります。

それゆえ、買主たるBは、Aに対して、その責任を追及しえます。具体的には、BはAに対して、瑕疵担保責任に基づいて損害賠償請求や解除(契約目的を達成できない場合)を求めることが可能です。