ビジネス実務法務入門連載、今日のテーマは契約の種類(分類)についてです。

一口に契約と言っても、売買契約や賃貸借契約、請負契約、サブリース契約等、契約にはたくさんの種類があります。

また、これらの契約は、一定の観点から、それぞれ分類することが可能であり、その分類の視点を抑えることは各種契約の特徴や性質を把握するのに約経ちます。

そこで、今回は、契約の種類(分類)について説明します。

典型契約(有名契約)と非典型契約(無名契約)

民法は。大きく、全13種の契約について規定を置いています。民法に規定が有るのは、次の13種の契約です。

<移転型>
売買契約・贈与契約・交換契約

<貸借型>
消費貸借契約、使用貸借契約、賃貸借契約

<労務型>
雇用契約、請負契約、委任契約、寄託契約

<その他>
組合契約、終身定期金契約、和解契約

これらの契約は、典型契約(有名契約)とも言われ、一般的には、社会における典型的な契約として民法典に規定が置かれたものと説明されています

民法に規定のある契約は、当然のことながら、社会における全契約を網羅したものではありません。

上記の他にも、社会においては、サブリース契約やファイナンスリース契約、クレジット契約、システム開発契約等の契約が使用されています。

これらのように、民法に規定がない契約の事を、非典型契約(無名契約)などと言うことが有ります。

なお、非典型契約につき、民法典に規定がないとはいえっても、非典型契約のなかには、複数の典型契約を組み合わせたような内容的の契約が少なくありません。

たとえば、ファイナンスリース契約は、賃貸借契約と金銭消費貸借とを組み合わせたような内容を有していますし、システム開発契約は、委任契約と請負契約とを組み合わせたような内容となっていることが少なくありません。

一定の視点による分類

典型契約か非典型契約かは、民法に規定があるか否かにより契約を分類するものですが、それ以外にも、契約を分類するいくつかの視点が有ります。

①双務契約と片務契約、②有償契約と無償契約、③諾成契約と要物契約、④一回的契約と継続的契約、⑤基本契約と個別契約(スポット契約)

①双務契約と片務契約

契約を分類する視点の一つは、契約当事者双方が債務を負うか否かという視点です。契約当事者双方が債務を負う契約を双務契約、片方のみが債務を負う契約を片務契約と言います。

たとえば、売買契約についてみると、売買契約によって、売主は商品を買主に渡すという義務を負い、売主は代金を支払うという義務を負います。売主・買主ともに債務を負いますので、売買契約は双務契約です。

他方、金銭消費貸借についてみると、典型的な金銭消費貸借は、金銭を借主に貸し渡した段階で成立します。

貸主・借主の義務を見てみると、契約成立した段階では、借主が貸主に金銭を返還する債務を負うだけですので、貸主は何らの債務を負いません(契約成立の段階で既に貸し渡している。)

借主だけが債務を負っていますので、典型的な金銭消費貸借は、片務契約に分類されます。

②有償契約と無償契約

有償契約というのは、契約当事者が互いに経済的な出損をすることを内容とする契約です。無償契約と言うのは、一方のみが経済的な出損をすることを内容とします。

有償契約の典型例は売買契約です。買主は代金を出損し、売主は商品を出損します。

無償契約の典型例は、贈与契約です。贈与者のみが財産を出損します。

なお、上記金銭の消費貸借契約も、借主が何らの利息の支払いもしなくてよいのであれば、無償契約かつ片務契約です。

ただ、借主が利息を支払わなければならないとの契約となっている場合、借主は、利息分を出損しますので、当該利息付金銭消費貸借契約は、有償の片務契約となります。

③諾成契約と要物契約、要式契約

諾成契約と言うのは口頭で契約が成立する契約を言い、要物契約と言うのは、目的物を交付して始めて契約が成立する類型の契約を言います。

諾成契約の典型例は売買契約です。他方、典型的な金銭消費貸借契約は、上記のとおり、金銭を貸し渡した(交付した)段階で初めて契約が成立しますので、要物契約となります。

また、書面でしなければ成立しない契約のことを要式契約と言います。

④一回的契約と継続的契約

一回的契約というのは、一回の債務の履行で契約が終了する契約を言い(一時的契約ともいいます。)、継続的契約と言うのは、将来に渡って債務の履行が継続する契約を言います。

一回的契約の典型例は、コンビニでパンを買う等の売買契約であり、継続的契約の典型例は、賃貸借契約(目的物を一定期間継続的に貸し続ける契約です。

継続的契約は、一般的には当事者間の信頼関係を基礎とするものといわれます。

継続的契約が成立した場合、当該契約は、当該契約の解除に際して、当事者間の信頼関係が破壊されていることが条件とされる、当該契約の解除の効果が将来に向かってのみ及ぶなど、一回的契約にはない特徴を有します。

⑤基本契約と個別契約

基本契約というのは、商品の継続的給付契約等に関し、契約の基本条件(代金の支払時期や方法、引き渡しの場所など)を定める契約です。

個別契約(スポット契約)というのは、基本契約に基づき、さらに契約される個々の具体的な契約を言います。

基本契約には、契約の基本条件を定めておくことで、個々の契約における個別条件を別途定めることの手間やコストを削減できるというメリットがあります。

もう一歩前へ(売買契約について)

上記の通り、契約は複数の視点から種々分類することが可能です。この分類を通して、契約の性質論等を整理していくことが可能になります。

ただ、契約の分類とは別に、個別に押さえておくのをお薦めするのが、売買契約に関する知識です。

民法の売買契約に関する規定は、契約の性質がこれを許さない場合を除いて、他の有償契約にも準用されます。

また、商法上、利益を得る目的で行う不動産・動産の売買(安く買って高く売る等)や賃貸目的の動産・不動産売買は、基本的商行為と呼ばれます。

そして、商法における商事売買に関する規定も、商法の個別の規定によって、他の商行為に準用されます(商法556条や557条など)

参照:商事売買に関する商法上の規定

そのため、売買契約に関する知識が各種契約の性質を把握する前提となることが少なくありません。

したがって、各種の契約の各論を学ぶには、上記分類の視点を持ちつつも、売買契約に関する知識から押さえていくのがお薦めです。