ビジネス実務法務検定、今回のテーマは売買契約の履行時におけるコスト等(送料・手数料・為替)の負担についてです。

売買契約に際して、買主が売買代金を支払うべき義務を負うのは当然ですが、それ以外のコストが契約の経済的利益に影響を及ぼしてしまうことがあります。

たとえば、EC事業等にいては、商品の配送費用等の負担増が収益の悪化に直結することも少なくありません。

そこで、今回は、売買契約のコスト等の負担につき、送料、振込手数料や売買契約に要する費用、為替に関する基本事項を確認します。

売買契約履行時のコスト

売買契約において、売買代金とは別に別途必要となる費用の典型例として、商品の送料や売買代金の振込手数料等が挙げられます。

送料について

まず、送料について確認します。

売買契約に際して、商品を買主のところに届けるために一定の送料等が必要となる場合、その費用は、売主負担でしょうか、買主負担でしょうか。買主が、商品の送料等まで負担する義務を負うのか、という問題です。

この点については、契約等により、送料をどちらの負担とするか定められている場合には、当該定めによって、送料負担者が決まります。

たとえば、「送料無料」などの契約においては、送料は買主に負担させないという意味の契約ですから、現に必要となる送料は売主が負担することになります。

他方で、売買代金とは別に別途送料を買主が支払う旨合意している場合には、送料は当然、買主の負担となります。

では、契約等で送料を負担すべき者が何も定められていない場合はどうでしょうか。

この場合について、民法485条は、弁済のために要する費用は、別段の意思表示が無い場合、原則として債務者の負担とする、と定めています。

<参照条文 民法485条>
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

そして、商品の引き渡しも債務の弁済の一つです。

そのため、売買契約において送料負担につき契約等で定められていない場合、商品の送料は原則として売主の負担となります。

振込手数料について

では、買主が売買代金を支払うために要する振込手数料はどうでしょうか。

この場合も契約等で取り決めがあれば当該取り決めに従います。しかし、取り決めが無い場合には、やはり民法485条が適用されます。

その結果、買主が売買代金を支払うために要する振込手数料は、原則として買主の負担とされます。

この場合、振込手数料が、買主の債務(売買代金の支払義務)を弁済するための費用に位置付けられるからです。

売買契約に要するコスト

上記は、売買契約における互いの義務(債務)に関するコストの問題です。しかし、これ以外にも、売買契約に要するコストとして、売買契約締結そのものにもコストを要することがあります。

典型例が契約書の印紙代ですが、そのほかにも、契約によっては、売買契約の締結のために、契約書自体の作成費用や仲介手数料等の費用を要することがあります。

こうした契約締結に要する費用は、買主負担でしょうか、それとも売主負担でしょうか。

この点についても、契約書等により、どちらの負担とするか定めていれば、負担者は契約書に従って定まります。他方で、契約書等によっても費用負担者が定まらない場合には、やはり民法に基づいて考えることになります。

そして、民法は、この場合の費用負担につき、双方折半、すなわち双方が等しい割合で負担すると定めています(第558条。なお、他の有償契約への準用につき第559条参照)。

したがって、送料や売買代金の振込手数料と異なり、これらの費用は、買主・売主が半分ずつ負担することになります。

参照条文 第558条
売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。

参照条文 民法559条
この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。


為替について

最後に為替について確認します。

たとえば、ある商品をドル建てで購入していたとします。たとえば、1ドル100円のレート時に売買代金を100ドルと契約をした場合を想定してみましょう。

この場合、買主は、売買契約の時点において、円換算で1万0000円の負担をしています。

ところが、売買代金の支払が売買契約より後になる場合、時間の経過により当然、為替レートが変動します。そして、当然のことながら、為替レートによって、買主の負担の程度は変わります。

たとえば、上記契約締結後、為替が変動して円安となった場合、買主は、1万円以下で100ドルを準備することができますが、反対に円高となった場合、100ドルを準備するには、1万0000円以上の費用を負担しなければならないことになります。

<参照条文 民法403条>
外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる。

上記の様な為替変動のリスクは、契約に何ら定めもなければ、売主・買主双方が被りうるリスクです。

こうした為替変動のリスクをさけるための方法の一つとしては、契約時において、円貨への換算レートを予め契約で定めておく、という方法があります。

私が関与した案件の中でも、外国から商品を輸入する取引を行う際に、為替レートを定めておかなかったために、収益・事業基盤が著しく悪化したという事案がありました。

為替レートの変動は、事業の規模を問わず、輸出入関連の事業を営む会社にとって、重大なリスクであり、そのリスクのコントロール・マネジメントを怠ることは、極めて危険といえます。

契約等によりコントロールし得る事柄ですから、ここを疎かにせず、十分な対処を検討することが望まれます。