不動産(住居や店舗・オフィス)を賃貸し、当初は賃料を払ってもらえていたが、次第に賃料の支払いが滞るようになった、こうした場合、借主に対して滞納賃料を請求する必要が生じます。

貸主であるオーナーが、賃料収入を生計の糧としていた場合、賃料の滞納はオーナーにとって、切実な問題となることも少なくありません。

また、企業がオーナーである場合であっても、収益性の悪化・キャッシュフローの悪化といった問題を引き起こします。

そのため、賃料の滞納が始まった場合、速やかにその回収を図ることがオーナーにとっての課題になります。

弁護士への委託は有力な選択肢

初めて賃料の支払いが滞納したという場合に、オーナーや管理会社が弁護士の下に相談に来られるケースは多くはありません。

滞納賃料分をオーナーや管理会社が借主に当月分と併せて請求することで、滞納賃料が支払われるというケースも少なくないからです。

もっとも、オーナーや管理会社が任意に請求をしても払ってもらえないという場合には、弁護士に滞納賃料の回収を委託するのが一つの有力な選択肢となります。

いつまでたっても払ってもらえないというのでは、不動産から収益を得る機会損失が広がるばかりですので、請求しても任意に払ってもらえないという場合には、早めの相談が望まれます

弁護士が介入した場合、弁護士が内容証明郵便などを利用して借主に滞納賃料の請求を出すことにより、借主にプレッシャー・心理的圧力が加わり、これまで払ってもらえなかった滞納賃料をすぐに払ってもらえるというケースもあります。

また、弁護士は、オーナーに代わって、訴訟等の法的手続をとることができます。つまり弁護士がオーナーに代わって行う法的手続(裁判等)を介して、滞納家賃・賃料を請求することが可能です。

賃料請求の場面で利用される法的手続

裁判所を利用して賃料請求をする場合、利用される法的手続は、主として、支払督促、少額訴訟・通常訴訟3つです。なお、地域によっては、裁判外紛争解決手続(ADR)も活発なようですが、北九州ではあまり利用されていません。

支払督促

支払督促は債権者の申立てに基づいて、債務者に金銭の支払をするよう督促する旨の裁判所書記官の処分をいいます。ここでは、オーナーが債権者、借主が債務者です。

支払督促には、裁判所に出頭することなく、手続きをすすめることが可能な点などにメリットがあります。

ただ、支払督促の手続の過程で、債務者から異議が出された場合、手続きが、途中から通常訴訟に切り替わり、場合によっては、初めから通常訴訟を提起する場合よりも、時間がかかるというデメリットがあります。

少額訴訟

少額訴訟は、原則として、1回の期日で審理を終えて判決が出される訴訟手続です。オーナーが借主を相手取って少額訴訟を提起することで、手続が開始します。

審理期間が短い点に少額訴訟のメリットが有りますが、60万円以下の金銭の支払を求める場合にしか利用することができません。

また、少額訴訟独特のルールとして、1年間同じ裁判所で訴訟を起こす限度回数が定められており、10回までとなっています。そのため、複数の案件を抱える企業などにとっては使いづらいかもしれません。

通常訴訟

通常訴訟は、もっとも原則的な訴訟手続です。オーナーが借主を相手取って訴訟提起をすることで、開始します。

通常訴訟の手続きにおいては、複数回の審理期日において、当事者が主張・立証活動を行い、裁判所がこれを審理して判決を行うことが想定されています(ただ、手続中に和解が成立し、判決に至らないケースも少なくありません。)。

また、支払督促や少額訴訟は、建物の明け渡しなどを求める手段としては利用できないため、賃料請求と同時に建物明け渡し請求をしたいという場合には、この通常訴訟の手続きを利用することになります

参照:家賃・賃料滞納を理由とする不動産明渡請求と経営判断

強制執行

上記3つの手続のいずれを選択するにしても、手続の過程あるいは手続後に相手方が任意に支払ってくれない場合には、強制執行の手続を別途取る必要が生じます。

支払督促や少額訴訟、通常訴訟は、賃料を回収する直接の手続ではなく、強制執行可能な地位を得るための手続として位置付けられます。

オーナーとしては、上記3つの手続きを通じて得た強制執行し得る地位に基づき、預金の差押えや給与の差押えなどの強制執行手続をとることになります。