ビジネス実務法務入門連載、今日のテーマは契約の拘束力です。

また、契約の拘束力に関連して、法律行為の無効、取消、契約の解除について説明します。

契約の拘束力とは

企業間、あるいは企業と消費者間において、いったん有効に契約が成立すると、契約当事者は、互いに当該契約に拘束されます。

もちろん、ここで拘束というのは物理的に拘束するという意味ではなく、当事者が、契約に縛られる、契約をなかったことにできない、という意味です。

不動産売買を例に

たとえば、私が業者との間で不動産の売買取引を締結したとします。この売買契約に基づいて、私は、不動産の代金を支払う義務を負います。

ところが、いざ不動産売買契約を締結した後、私がやはりその不動産は気に入らないといって、契約を破棄できるでしょうか。

これはできません。これを認めてしまうと、事業者は、安全・安心に取引をすることが出来なくなってしまいます。

契約が有効に成立した場合、それを簡単に破棄することはできないのです。これが契約の拘束力の意味です。

互いに、契約を守ることを前提に、契約を成立させる合意に至っている以上、契約に拘束力が発生するのは、いわば当然ともいえます。

この契約の拘束力を前提に、企業は日々、契約を得るために、事業活動をしています。

契約の無効・取消・解除)

この契約の拘束力に関連して、契約の無効・取消・解除について説明しておきます。

契約の無効

契約の拘束力が発生するのは、契約が有効に成立した場合です。そもそも、契約が「無効」の場合には、契約の拘束力は発生しません。

当然、契約に基づく法律効果(権利義務の発生などの効力)も発生しません。。

たとえば、現代社会において、「人身売買」は誰がどう考えても無効です。この無効な契約は当事者を拘束しません。当該契約は初めから効力がないものと扱われます。

これは極端な例ですが、その他、民法では、たとえば書面が交わされていない保証契約を無効と扱ったり、代理権のない無権代理人による契約を原則として無効としたりと、契約が無効となる場合を種々規定しています。

また、民法は、他にも、意思能力のない者(たとえば2歳の子供等)が行った法律行為や、公序良俗に反する法律行為を無効と扱っています。

契約の取消

上記のように、民法の規定等に基づき、契約が無効と扱われる場合、当該契約の拘束力は発生しませんし、法的効力もありません。これと似て非なる概念として、次に契約の取り消しについて見てみます。

一応は有効に成立した行為を無効とする

「取消」というのは、一応有効に成立した法律行為(契約を含む)を、取り消すという意思表示をすることによって、初めから無効であったことにする行為です。

この「取消」のポイントは、「一応有効に成立した」という点です。

取消の場面では、曲がりなりにも契約が一応は有効に成立している点で、当初より契約の効力が否定される上記「無効」(取り消すという意思表示の有無にかかわらず、契約当初より法律効果が否定される)とは異なります。

取消事由が必要

もちろん、どんな契約でも取消の対象となるというわけではありません。

契約が一応は有効に成立しているため、契約の拘束力を否定するには、民法で定められた相応の事情(取消事由)が必要です。

たとえば、民法20条がその例で、同条は、未成年者等の保護のため、未成年者等が行った法律行為を原則として取り消しうるとしています。その他、詐欺や強迫によってなされた行為(契約も含む)等も取消の対象となります。

取消の効果

契約が取り消されると、契約は、初めから無効であったものとして扱われます。

契約が遡って無効となるため、たとえば、すでに売買契約に基づいて金銭が支払われ、商品も交付されているという場合には、両当事者は、これを元の状態に戻す必要があります(原状回復義務)。

契約の効力が否定される結果、契約に基づいて行われていた義務履行等の行為について、これを元に戻せ(原状に回復しろ)となるわけです。


契約の解除

最後に、契約の解除について見ておきましょう。

解除とは

解除は、有効に成立した契約を無効とするものです。取消の場合のように、「一応有効」に成立した契約を否定する場面ではなく、きちんと「有効」に成立した契約の拘束力を否定するのが解除です。

必ずしもすべてと整理しきれるわけではないのですが、契約の無効や取消が、契約時における事情をもとに法律上の効果を否定する概念であるのに対し、解除は、多くの場合、契約後に発生した事情を原因に契約の拘束力を否定するという場面で行われます

解除は、有効に成立した契約の拘束力を否定するものですから、解除をするには、やはり相応の事情(解除原因)が必要です。

解除の典型例は、契約違反による解除(債務不履行解除)です。

たとえば、契約上の代金支払期限が守られないと言った場合に、契約の解除が認められます。

その他の例としては、たとえば、合意による解除(約定解除)や手付解除などがあります。

ビジネス的なポイントとしては、「解除原因」(解除できる場合)について、当事者間が合意により契約内容としておくことで、当該解除原因が発生した場合に、解除が認められうるという事です。

法律に定めがなくても、たとえば、「本契約書第〇条に定める義務に違反した場合、甲は、本契約を解除できる」などと契約書に記載しておくことで、解除原因を創出することが可能です。

解除の効果

<遡及的に無効>
契約の解除がなされると、原則的には、契約の解除により、契約は初めからなかったものと扱われます。

たとえば、売買契約において、すでに代金が支払われて、商品も交付されているという状況の下で解除が認められると、売主は代金を返還する必要が生じますし、買主は商品を返還する必要が生じます(原状回復義務)。

はじめから契約がなかったことになるからです。

<将来的に無効>
ただ、例外的に、不動産の賃貸借契約など、継続的契約では、解除時から無効と取り扱うのが一般的です。。

たとえば、不動産の賃貸借契約に関して、契約当初に遡って契約の効力を否定すると、それまでの賃料や、それまでの居住の利益の返還などを巡って法律関係が錯そうします。

これを避けるべく、継続的契約では、契約を解除しても、初めから無効となるのではなく、解除したときから無効と取り扱うのが通常です。

この場合、貸主は、解除の時までに受け取った賃料の返還義務を負いません。借主にとっても、解除時までの不動産の利用権限を問議されることはありません。

ただ、借主は、契約解除後は、建物を利用する正当な権限を有しませんので、不動産を貸主に明け渡す義務を負います。