今回のテーマは、法定成年後見人・保佐人・補助人(以下、このコラムでは、3者を合わせて「成年後見人等」といいます。)が選任されるまでの手続についてです。

なお、成年後見等の制度概要に関しましては、次の記事で解説していますので、そもそも成年後見って何?という方はそちらからご参照ください。

参照:成年後見制度(概要)

また、任意後見人の選任については、本コラムの対象外ですので、事前にご承知おきください。

成年後見人等の選任手続の流れ

成年後見等の制度は、判断能力が不十分な方の判断能力を補う人を、家庭裁判所が選任する制度です。

成年後見人などが選任されるまでの手続の流れは概略次のとおりです。この手続の流れは、後見・保佐・補助の3類型いずれにおいてもほぼ同じです。

① 成年後見人等の選任の申立

成年後見人等の選任を求めるには、成年後見人等の選任の申立をしなければなりません。

成年後見人等の選任の申立は、「申立権を有する申立権者」が、本人(被成年後見人等になる見込みの方)の「住所地」を管轄する家庭裁判所に行います。

ここで、「申立権を有する申立権者」というのは、本人、配偶者、4親等内の親族や検察官(以上につき民法)、市区町村長(福祉に関する各種法律で規定)等を指します。

また、選任の申し立ては本人の「住所地」を管轄する家庭裁判所に行わなければなりませんが、ここにいう「住所」は「住民票上の住所」という意味ではなく、本人の生活の本拠を意味します。

たとえば、東京都に住民票があったとしても、北九州市小倉北区に生活の本拠がある場合(長期にわたって入院している場合も含まれ得る)、北九州市小倉北区を管轄する福岡家庭裁判所小倉支部に選任の申し立てをすることになります。

なお、選任の申立には種々の資料提出が必要となりますが、この点については別の機会に説明します。

② 審理

裁判所は、申立時に提出された申立書や種々の資料を審理の材料としますが、その他の審理方法としては、成年後見人等候補者との面談・事情聴取や本人の鑑定等があります。

事情の聴取など

成年後見人等の選任の申し立てがなされると、申立人・成年後見人候補者との面談が実施されます。当該面談時には、口頭で、事情の聴取等が行われます。

また、家庭裁判所は、成年後見人の選任の審判の審理に際しては、成年被後見人となるべき本人が心身の障害により陳述を聴くことができないときを除き、本人の陳述を聞く必要があります(家事事件手続法120条)。

また、保佐・補助人の場合には、例外なく、本人の陳述を聞くこととされています(家事事件手続法130条、139条)。

本人の鑑定

さらに、法律上の原則としては、成年後見人・保佐人の審判の審理に際しては、鑑定が必要という立てつけになっています。なお、補助については、鑑定が原則必要との建前はとられていません。

この選任にかかる鑑定費用は、5万円から10万円程度が一般的ですが、申立人の負担となりますので、鑑定の要否は、成年後見の申し立てにおける実務上の重要な関心事です。

鑑定が必要か否か(明らかに鑑定が必要ないと言えるか)は、本人の状態や提出される診断書の内容等を考慮の上判断されます。

参照条文
<家事事件手続法119条>

家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。

<同第133条(一部略)>
第119条の規定は被保佐人となるべき者及び被保佐人の精神の状況に関する鑑定・・・について準用する。

<同第138条(一部略>
家庭裁判所は、被補助人となるべき者の精神の状況につき医師その他適当な者の意見を聴かなければ、補助開始の審判をすることができない。


③ 審判

上記の審理を経て、成年後見人等の選任の要件(法律上の条件)が満たされていると家裁で判断された場合、後見等の開始、及び、成年後見人等を選任する旨の審判が出されます。

この審判に際して、実際にだれが成年後見人等となるかも、裁判所が決定します。

なお、上記選任の申し立てから、この審判までの期間は、順調にいけば2カ月程度です。

申立から審判までの期間の財産散逸が不安な場合には、別途、後見等開始前の保全処分を求めるか、につき検討をすることになります。

参照:審判前の保全処分(後見等の開始前に本人の財産を保護する方法)

④ 審判の確定

成年後見人等が審判書謄本を受け取ってから、2週間が経過するまでの間、本人や4親等内の親族などは、成年後見等の開始の審判につき、不服申立をすることができます。

反対に、この期間内に不服申立がなされなければ、成年後見等の開始の審判が確定します。

ここでようやく、成年後見人等の選任までの手続きが完了です。弁護士が成年後見等の申し立ての委任を受けた場合、申立から、この審判確定時点までをサポートすることになります。

なお、審判が確定すると、東京法務局に成年後見などの内容が登記されます。